キスだけでは終われない
彼女は私の中で起きた変化にすぐに気がついてくれたようだった。
あの人のことを考えてしまい、顔が熱くなっていたことを悟られてますます顔が熱くなる。
彩未ちゃんは温かい笑顔を向けて先を促してきたので、隠すことなくシンガポールでの出来事を話した。
「そんなに素敵な人に出会ったっていうのに、連絡先も交換せずに帰ってきちゃったの?さっき素直に楽しかったって言えなかったのは、気がかりだからでしょう。それって香苗にしてみたら初恋ってことにならない?本当に後悔していないの?」
物思いにふけっていると次々とくる彩未ちゃんからの質問に答えられず、しばらくの間沈黙してしまった。
それに初恋なんて言われて、彼のことを思い返してしまった。マサキと名乗った男性は端正な顔立ちで、背も高く細身に見えるのにがっしりとした男らしい筋肉質な体で、とても素敵な人だった。
「とにかく慌てて部屋から出てしまったし、それに素敵な人過ぎて…ずっとは一緒にいられないだろうなって思っちゃったの。一緒にいたらいろんな女性から見られて落ち着かなかったし…」
「それだけ格好いい人だったってことよね?」
「うん…」と少し寂しさが過った。