キスだけでは終われない
週明け月曜日からは今まで通りの生活に戻る。
服は迷わずに選んだピンクベージュのワンピースを着た。もちろんアヤちゃんがくれた服なので、とても素敵なデザインだ。髪はハーフアップにして顔を隠す眼鏡はもちろん掛けない。最後に自分の誕生日に自分のために購入したパパラチアサファイアのピアスとネックレスを付けた。
もう存在を薄くするための装備はいらない。代わりに以前とは違う自信を標準装備する。
「おはようございます」
と職場に入ると、先に出勤していた部長が挨拶してくれた。
「おっ、おはよう。休暇中はどうだったのか彩未が気にしていたぞ」
「うん。彩未ちゃんには帰ってすぐに電話もらって、昨日会ったよ」
笑顔で話していると、急に兄の顔になった部長が私の頭にポンと手を置き「休み前と比べると随分と明るい顔つきになったな」と言ってくれた。
まだ少し足りなかった自分に対しての自信にプラスの要素をくれるから、本当に頼りになる兄だな…と思う。
「あっ、これお土産なの。暁斗兄さんから紗英さんに渡してね。」
「あぁ、気を遣わせて悪いな。あいつも喜ぶよ。ってあいつにだけか?」
とニヤッと意地悪そうに笑うので
「あっ、部長の分は職場の皆さまと同じ物です。妊婦さんも大丈夫な物ですから紗英さんにって渡しましたけど、ご一緒に召し上がってください。」
力説していると、柔らかい顔で「分かってるよ。ありがとうな」と再び兄の顔になりお礼を言ってくれたので、私も自然と笑顔になった。
紗英さんは部長の奥さま。結婚するまでいろいろあったみたいだけど、今ではお互いを思いやっていて、とても仲良く理想の夫婦という感じ。
「おみやげ渡しておくよ。今度、彩未と一緒にうちにも遊びに来いよ」
実は私の憧れる夫婦像だったりする。
「ありがとう。暁兄」