キスだけでは終われない

その日は以前の大変身した時から声を掛けてくれていた同僚たちと食事に行くことになった。

今までは必要最低限の会話しかしてこなかったことが悔やまれるほどの楽しい時間が過ごせて嬉しかった。

その後もアヤちゃんや同じ事務補助の女性たちと食事に行ったり、ファッションの話をしたり、時には恋の話なんかも聞いたりした。

今までの自分に勿体ないことしてたと、過去に戻れるなら教えてあげたくなるほど充実した時間が送れた。

シンガポールから戻って2週間たった頃お祖父様から連絡があった。

「はい。営業1課 高梨でございます」

「秘書課の平井です。香苗さんですね。今日、会長が一緒に食事に行こうとのことでこちらにいらしてますが、ご予定の方はいかがでしょうか」

「今日ですか?…お祖父様は相変わらず急ですね」

「そうですね。思いついたらすぐに行動されますからね」

「平井さんもいつも大変ですね」

「まぁ、慣れてますので。それでいかがでしょうか?」

「あっ、大丈夫です」

「では、お仕事が終わられたら、地下駐車場の方にいらしてください」

「わかりました」

「では、後ほど。よろしくお願いいたします」

「はい、失礼いたします」
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