キスだけでは終われない

ここは祖父のお気に入りのフレンチレストランで中に入るとすでに見知らぬ男性二人が待っていた。

一人は50代くらいでもう一人は30代くらいと思われる。

祖父が二人に声を掛けながら入室するので、後に続いた。

「こんばんは。待たせたかね。今日は忙しい中、時間を取らせてしまいすまなかったね」

「いえ。坂口会長、お忙しいところお誘い頂きありがとうございます」

父親と思われる男性が祖父に挨拶すると、その人はバッグや靴など皮革製品を取り扱っているカタヤマの社長さんだと教えてくれた。

それからもう一人の男性が私の方に一度微笑みを向けた後、挨拶をした。

「こんばんは。本日はお招き頂きありがとうございます。片山修一です」

「修一君は久しぶりだね。今日は孫も一緒に連れてきたんだが…香苗、お前も挨拶しなさい」

「は、初めまして。高梨香苗と申します。今日はお会いできて嬉しいです」

少しぎこちない挨拶になったけど、笑顔を忘れなければ印象はさほど悪くないはず、と考えニコリと微笑む。

「会長自慢のお孫さんですね。お話はよく伺っていましたよ。噂通りお美しい方ですね」なんて言われて視線をさ迷わせた。

私に向けて最高の笑顔と思われる顔で挨拶する男性に目を瞬かせ驚く。

今の状況が理解できていない私に祖父が話しかけてきた。

「香苗、こちらはカタヤマの社長と息子さんだよ。」

カタヤマは主に革製品を扱っている有名な会社なのは私も知っているし、うちの服に合わせて一緒にモデルが着用している写真も目にしていた。確か…アヤちゃんのところでも靴を合わせていたはず…なんて考えていた。
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