キスだけでは終われない

そんな私の悩みを分かっていたかの様な祖父の話だった。

そして、会長室に呼び出された二日後、祖父から電話がかかってきた。

「彩未が綺麗にしてやると言っている。行ってこい。今よりもっと綺麗になれる。いつまでも男が怖いとか嫌だと言っていると寂しい老後を迎えるぞ」

老後なんてそんな先のことまで心配できるほどの年齢ではなく言い返す。

「老後って、何年先のことを今から心配しなくちゃいけないのよ。もうっ」

「この歳になると1年があっという間でな。老い先が短いんじゃ。だからじいさんの頼みを聞いてくれ」

「お祖父様の頼みならできるだけ聞いてあげたいって思うけど、私自分に自信もないし、がっかりさせてしまうのも嫌だし…」
と悩んでいると

「だから、上手くいくように彩未の所で綺麗にしてもらってくればいいだろう。綺麗になってお前が少しでも自分に自信をつけたら、きっと相手から断られたりはせんよ」

「…本当に相手から断られても知らないからね。その時はがっかりしないでね」

「断られたら次を紹介してやる。お前に紹介してやろうと考えているのは一人や二人ではないんでな。いくらでも候補者はおるぞ」

はっはっはっ、という笑い声とともに本当に何度でも何人でも連れてきそうな祖父の言葉にいろいろ考えさせられる。私だって仕事を5年も続けられて、独り暮らしも初めて2年が経ち、それなりのことはできるようになったはず…。
< 7 / 129 >

この作品をシェア

pagetop