キスだけでは終われない

彼が連れてきてくれたのは、銀座にあるホテル”イル・ピュ・フィーネ”のラウンジだった。

彼は常連なのかバーテンダーから声を掛けられていた。

窓際で奥の方にあるそれぞれの空間が保たれたいい雰囲気だった。席に案内されると、ドリンクメニューを見ながら聞いてくれた。

「アルコールは大丈夫?さっきはずっと驚き顔で食事は取っていたようだけど、食前酒以外は水ばかり飲んでいたよね」

「あっ、アルコールが苦手な訳ではなくて…ただ驚いてしまったので、それどころではなくて…」

「坂口会長から僕とのお見合いのことを何も聞いてなかった、それで終始驚くようにしていたんだね」

クスッとにこやかに微笑まれてしまった。

「はい」と言って恥ずかしさもあり、手元ばかりに視線を向ける。

「大丈夫だよ。僕はそんな素直な反応をしている香苗さんに好感を持ったから」

言われ慣れないことばかりで、恥ずかしさがマックスになり赤面してしまう。そんな落ち着かない私の様子を気遣ってか、話題をすっと替えてくる。
< 70 / 129 >

この作品をシェア

pagetop