キスだけでは終われない

少し意地悪な顔で聞かれ、焦ってしまう。

「先月、旅行先のシンガポールで…たまたま飲むことになっただけですよ。あっ、ロブロイって、やはりカクテル言葉ってあるんですか?」

彼はじっと私の目を見つめ、視線を捕らえ形の良い口を開く。

「ロブロイは『あなたの心を奪いたい』って意味だよ」

そう言って、ニコリと微笑むと目の前にいる彼から、今度はその時のことを聞かれた。

「前に飲んだことのあるカクテルは何なのかな?」

「あ、シンガポールスリングとスクリュードライバーを飲みました」

「ふーん。誰と飲んだのか気になるところだけど…まあいいか。一人で海外にも行けるのに引きこもりだったの?」

「引きこもりを脱するための旅行だったので…。それで、あの…シンガポールスリングとスクリュードライバーにもカクテル言葉ってあるんですか?」

「あるよ。あるけど僕みたいに知ってて飲んでる人が多い訳ではないと思うしね。気にしなくてもいいんじゃないかな」

「そうですよねぇ…」
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