キスだけでは終われない
私の後ろから来てすぐに男性との間に立ち、私を掴んでいた知らない男の手を離してくれた人に、一瞬横浜で同じように助けてくれた人のことが思い浮かんだ。
でも、今回たすけてくれたのは片山さんだった。
男二人組は片山さんに睨まれ、その場から去っていった。
「失敗したな。駅前で君を一人で待たせるなんて」
チッと言うつぶやきが私の耳に届いたと思ったら、私に向き直り頭を下げてきた。
「香苗さん。待たせてごめんなさい」
「全然大丈夫です。そんなに待ってませんから」
「いや、でも嫌な思いをしたでしょう?今度からは少し遅くなっても迎えにいくようにします」
「迎えなんて、大丈夫ですよ」
えへへ、と笑ってみたものの内心を読まれたのか納得はしてない感じだった。そんな腑に落ちていない様子の彼だったが、一呼吸おいて私の背中に手を当て歩きだす。
「さぁ、ご飯を食べに行こう。知り合いがオーナーしているレストランなんだけどイタリアン好き?」
「好きですよ。小さなころに会ったきりですけど、父の祖母がイタリア人なのでイタリアには特別な思いがあるんです」
「そうか。香苗さんって純粋な日本人ではなさそうだと思っていたんだけど、クウォーターだったんだね」
「そうなんです。この顔も髪も目立つから嫌いだったんですけど、やっと受け入れられるようになってきて…」