キスだけでは終われない
私はようやく今までの地味な自分から年相応の女性らしくおしゃれをしてみようと考えを変え始めていた。
そして、週末の終業後に久しぶりに彩未ちゃんに電話をした。
「もしもし。彩未ちゃん、香苗です」
「香苗。やっと電話くれたのね。賢蔵おじさまから聞いてたから、連絡待ってたのよ」
「うん…」
明るい声で応えてくれたのに、まだ気持ちがついていけてない私は歯切れの悪い返事をしてしまった。
「昔のこと、引きずってるのは分かるけど、電話してきてくれたってことは迷いながらでも変わろうとしている、ってことでいいんだよね?」
「そう…そうなんだと思うけど…。私に出来るかな?また、昔みたいに嫌なことになったりしないかな?」
「乗り越える力ってやはり本人の努力が必要だと思うの。社会人として5年働いてきて仕事でもいくつも上手くいかないことだって、嫌なことだって苦手なことだって乗り越えてきたでしょう。それで少しずつ自信を持てるようになったと思うけど」