キスだけでは終われない
始まって1時間が過ぎようとしていた頃に、会場が騒がしくなった。誰かが入ってきたようだったが、私の位置からはその人の姿を見ることはできなかった。
でも、その人が誰なのかはすぐにわかった。
「よう。久しぶりだな」
「おう。元気だったか」
修一さんに懐かしいとばかりに笑顔で話しかけてきていた。その人はシンガポールで出会ったマサキだった。
「修一も元気そうだな。そちらの女性は?」
「あぁ、紹介するよ。彼女は高梨香苗さん。今、彼女と付き合ってるんだ。香苗さん、こいつがさっき話していた須藤会長の孫で、須藤柾樹」
修一さんは佐伯さんに紹介した時と同じように私を紹介していく。それを聞いていたマサキはとても冷静に対応しているように見えた。
やはり気にしていたのは私だけだったのね…。柾樹にとって私はもう過去になっているんだと思うと寂しさが込み上げてきた。
私って面倒だ。自分が逃げ出したくせに…勝手なこと思ってる。その場にいることが苦しくて修一さんに声をかけてレストルームに行く。