キスだけでは終われない

「やぁ。こんなところで再会できるとはな」

レストルームを出たところで声をかけられた。彼がこんな所にいるとは考えてもいなかった私は衝撃を受けた。

「…ぁ…。こ、こんばんは」

小さな声で返事をし、修一さんがいる会場に戻ろうと足を動かす。動揺していることを悟られたくなくて、彼から離れようとした。

「待てよ」

柾樹はそう言って腕を掴み、私の手を取り人気のない奥の通路に連れて行った。壁に両手をつき私を囲む。なぜか怒っているようにも見える彼の様子に顔をあげられなくなる。

「やぁ。久しぶりだな、カナ」

「………」

「どうした?俺のこと忘れたか?」

「…忘れてはいません。でも、忘れようと思っています」

決心をするかのように、俯いていた彼女が顔を上げて言う。俺を見ているようで視線が合わない。

「それは修一のために?」

「それだけではないですけど…。でも、想い出でいいんです」

「努力して忘れるようなことなのか?悪いが君が忘れても俺は忘れない。俺の記憶にしっかり刻まれているからな」

彼女の顔を見つめながら言うと彼女は気配を感じたのかようやく俺を見た。
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