キスだけでは終われない
「それは承知の上です。この持ち主の方とは慌ただしく別れてしまい、連絡先を聞きそびれてしまったんです。なので…無理は承知の上でなんとか教えていただくことは出来ませんか」
「こちらの購入者が当店の顧客リストから分かったとしても、お客様の連絡先を教える訳にはいきません。ですが、こちらからお客様に連絡してどうされたいかを確認することなら出来ます。それでよろしければ取り次ぎいたします。後はお客様の判断になりますが、必要であれば直接あなたへ連絡をするという事でいかがでしょうか」
「分かりました。では、こちらが私の連絡先です」とプライベートナンバーを書いた名刺を渡す。
「まあ、須藤ホールディングスの副社長さんなんですか……。どうもいつもお世話になっております。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ございません。うちのドレスを貴社ホテルのウェディングでご使用いただきありがとうございます」
「いえ、こちらのドレスはお客様からの評判も良くて、弊社といたしましても助かっております」
業務上の繋がりがあることで、上手く取り成してもらえると助かるのだがな。
そう期待して待ってみようと思い「では、よろしくお願いいたします」とお辞儀をし、店から出た。
その後、今回の帰国の目的である祖父の喜寿を祝う会の会場であるホテルに行く。
ギリギリまで仕事を詰め込み、さらにリュクスマリエに寄っていたため、俺が会場に着いたのは開始時刻を1時間程過ぎていた。