冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
係の者たちにとってそれは熱い話なのか、途端に身内で盛り上がる。

ふうんとミリアは言い、神獣へ視線を戻してブラシを持つ手を動かした。

(でも私、『王女殿下』じゃないしなぁ)

そもそも、そこが問題なのだ。

うっかりときめいたせいでアンドレアを発情させてしまったのは申し訳なく思っている。しかし、なんとしても婚姻へ進展してしまうことだけは避けたい。

(見た目を真似たって、私は姫様にはなれないわけで)

もふもふもふもふも、としながらミリアは考える。

(交流していたら、いずれボロも出るかもしれないわけで)

対面上の詫び云々はどうでもいいので、放っておいて欲しい。アンドレアと話す機会が想定外に発生してしまっているのも悩みどころだ。

その時、急に呑気な声が聞こえた。

「やぁ、すごい気迫でブラッシングしているね?」

「うわぁっ」

びっくりして肩がはねた。素早く見つめ返すと、この前も来ていたお爺さんが腰を屈めて覗き込んでいる。

「あ、なんだ、おじいさんか……」

そう口にしたミリアの向こうで、カイたちが「ひぇ」と妙な細い声をもらした。声を聞いた係の者たちも、緊張したみたいに私語を止めた。

「何か悩みごと?」

やたら静かになってしまった場で、お爺さんがわざとらしい口調で「よっこいしょ」と言ってしゃがみ、ミリアと目線を合わせる。

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