冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
(あ、手は意外とお若いかも)

そんな感想を覚えつつ目を上げると、お爺さんが立ち上がった。こうして見ていると、とても身長が高いのが分かる。

「おじいさん、もう帰るの?」

「散歩で立ち寄っただけだよ。もう戻らないと、仕事がね」

歩き出したお爺さんが、肩越しに振り返ってにっこりと笑い、手を振ってくる。

「そっかー、仕事してるんですね! がんばってくださいね!」

ミリアは片腕で神獣を抱っこして支えると、手を振り返した。場に居合わせた全員が、固唾を呑んで見守っていた。

その時、お爺さんが足を止めた。下げられていく手が、ぷるぷると震えている。

「おじいさん、どうしたの?」

「可愛いっ……補佐には甘やかすなと言われているが……んんっ、いい子だから飴玉あげちゃう!」

お爺さんが何事が呟きいたかと思ったら、走って戻ってきた。素早くミリアの華奢な手を取り、飴玉の包みを二個握らせる。

「わぁっ、この前の美味しい飴玉だ! やった! ありがとうおじいさん!」

ミリアはちょっと元気が出てきた。おじいさんは満足そうに白い口髭を揺らして、また会おうね絶対だよと言ってるんるんとした足で去っていった。

それを手を振って見送ったミリアは、ふと周りの者たちの状況に気付いた。なぜか全員が、唇をきゅっと吸い込んでいる。

「……ねぇ、それどんな表情なの?」

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