冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
姫らしくないとあやしまれないだろうか。そう悩んだ時、テーブルに紅茶の用意を整えていく侍女が窓辺のケースに気付く。

「あら、素敵なお花ですわね」

ミリアは、ぎくんっと肩がはねた。

昨日、彼女が木の上から取って、アンドレアが頭に差してくれた花だ。

捨てることなんてできなくて、風で飛んでしまわないよう茶葉保管用のガラスケースの中に置いて飾ってしまっていた。

ミリアはなんでもないからと言ってはぐらかすと、仕事を済ませた侍女たちを早々に帰した。また窓辺の棚に両手で頬杖をついて、花を眺める。

「偽物姫の私に、似合うはずがない花、だよね……」

どうして彼は、偽物のミリアになんて花を飾ったのか。

ミリアは、ガラスケースに指を添えた。目に入った指先は華奢で、コンスタンシアと違ってナイフから剣の扱いまで長けたもので――。

(――きっと、花なんて似合わない)

そう思ったら、またしても指をそっと引き戻していた。

「……私が結婚相手の姫様だと思っているからであって、それ以外の理由なんてあるわけないしっ」

気を奮い起こすように元気よく言ってみる。

だが彼の笑った顔が脳裏にちらついた瞬間、胸がきゅっと苦しくなった。

「彼が、姫様にあげたものだもん……私が、勝手に捨てられるはずがないし」

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