冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
父であるジェフリルド国王がしれっと『仕事で』と言ったが――実のところ、彼だけが花嫁の正確な来訪時刻を知らされていなかっただけだった。

「父上!」

重いはずの国王の間の扉が、本能をむき出しにした獣人族の怒りの力でバンッと押し開けられる。

扉に立つ警備兵も、ひぇえと怒り心頭のアンドレアを見守っていた。

彼が怒っているのはイベント時刻を伏せられたことではなく、勝手に花嫁を決めて結婚を強行されたことにある、と誰もが知っていた。

「俺は結婚などしないと言いましたが!」

響く怒声に対して、休憩中のジェフリルド国王は玉座で葡萄をつまむ。

「何百回も聞いたよ? だから、結婚させた」

何をいけしゃあしゃあと、とアンドレアは涼しげな王の横顔に奥歯をギリギリする。

早く婚約者を決めよ、というのが父の言い分だった。

十代の頃から飽き足らず候補を寄越し続けてきて、その攻防にはアンドレアもうんざりしていたところだ。

だが、まさかの結婚だ。

そのうえ、相手は隣国のサンスティール王国の第一王女コンスタンシアだった。

その時、まるで思考もお見通しだとでも言わんばかりに、タイミングよく父の目がアンドレアへと戻る。

愉快そうに目を細められて、アンドレアはさらに頭へ血が昇るのを感じた。

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