冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
たぶん、木から落ちて受け止めてくれた時には恋が始まっていた。

止めるどころか木登りの提案を許可して、失敗したのに『ミリアらしい』と喜ぶみたいに笑ってくれた彼――。

その笑顔が、言葉が、彼自身の存在がするっとミリアの心に入り込んだのだ。

「だから、胸がどきどきしたんだなぁ」

今になって全部腑に落ちた。

ミリアは、溜息を吐き出しながら腕に額を乗せた。こんな気持ちは初めてなので、どうしたらいいか分からない。

(どうしよう……)

アンドレアのことを考えるだけで、心臓が変になる。

それと同時に、彼が見ているのはミリアを通して『コンスタンシア姫』だという事実に、ずきずきと胸が締め付けられるのだ。

シャルスティーヌは、待って様子を見ることも大事だと助言してくれた。

彼女は本物の〝姫様〟だ。たくさんの知識と、自身の経験からも考えてそう言ってくれたのだろう。だから聞くべきだと思う――のだけれど。

(アンドレア様が初夜の日を決めたらおしまい、だからすぐに動くべきだよね)

身代わりがバレたら、国交問題になるかもしれない。

この国の人たちは〝第一王女〟を娶ったと思っているのだから。

それでもミリアは苦しかった。離縁するためには、アンドレアを傷付けてしまう。こうして話せる関係も終わる。

(ううんっ、何を悩んでいるの。やるべきことは何も変わってない――私は、身代わりなんだから)
< 180 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop