冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
アンドレアとの結婚を、どうにかしてなかったことにする。
ミリアの気持ちなんて関係ない。
(でも――)
元々この計画の実行は、互いの利益が一致していると思ったからだ。アンドレアがまさか結婚を放棄しない姿勢に転じるなんて、ミリアも、そしてガイエンザル国王たちも予想していなかった。
(まさか彼が幼いあの日、挨拶に訪れた姫様を見初めていたなんて)
まったくの計算外だった。誰も、傷付けない計画だと思って乗り出したことだ。
ミリアは、彼を傷付けたくないと思っている。
(でも……どちらにせよ、傷付けてしまうんだ)
悲しくなった。ミリアが気持ちを返したら、彼は喜びのあとに一層絶望するだろう。拒絶しても『コンスタンシア姫に嫌がられている』と思って、彼を傷つけてしまう。
その時、ノック音がして肩がはねた。
「俺だ」
その声はアンドレアだった。
(えっ、なんで彼が!?)
ミリアは慌てた。
今は、化粧だってしていない。消灯もしていない状態なので、出なければかえって不審がられるだろう。
全ての明かりをつけていないので、もしかしたら見えづらいかもしれない。
それを期待して、彼女は大急ぎでナイトドレスの上からガウンを羽織った。セットもされていない前髪を手櫛で前に寄せ、髪の色を変えると扉へと走る。
「こんばんは」
開けたところで、アンドレアがそう言って微笑んできた。