冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
(……あれ? ちょっと元気がなさそう?)

笑顔が変だなとミリアは感じた。

けれど今、彼女は髪色を変えただけだ。姫仕様の衣装に身を包んでいないので、自分の姿が大変気になって観察する余裕はなくなる。

「え、と、こんばんは?」

バレないか心配で、応えた笑顔が若干引きつる。

「中に失礼してもいいか?」

「えっ?」

続く言葉を考えている間にも、アンドレアがそう告げると、やや強引に入ってきてしまった。急いで着たことが分かるミリアのガウンを見下ろす。

「また寝ていないと思って訪ねたんだが」

言いながら、彼が後ろ手で扉の鍵を閉め直した。

ミリアは、正面から姿を見られて動揺した。しかしふと、普通に話してきている彼にハッと察した。

(バレていないっ。髪の色だけで別人と気付かないとか、この人案外鈍いのでは!)

日中より部屋が薄暗いのも助かったのかもしれない。

初恋相手とはいえ、彼の記憶の中のコンスタンシアは十歳だ。ぎりぎりセーフで勘付かれていないのだろう。

(よしっ、まじまじと見られる前に帰そう!)

ミリアは、色を変えた髪先を引っ張ってそう決めた。

「夜に来るのは不謹慎ですわ」

とりあえず、気丈な素振りで姫っぽく非難するように言ってやった。嫌な気持ちになって、彼が帰ってくれるのではないかと考えたのだ。

(恋した相手からの非難なら、効くはず!)

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