冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
ミリアは自信があった。

するとその様子を見たアンドレアが、眉一つ変えず距離を詰めてきた。

「ちょ、ちょっと何――」

「夫婦なのにか?」

「へ?」

怖い目で見据えられて、委縮した。

その次の瞬間、ミリアは彼に抱き上げられていた。

「うわっ」

彼はそのまま開いた続き部屋のベッドへ向かうと、彼女を下ろすなり、のしかかって手首を握って押さえ付けてしまった。

「ア、アンドレア様っ?」

目の前に好きな人の顔があって、ミリアは胸の鼓動が速まった。

(――って、違う。どきどきしている場合じゃないでしょ私!)

生活魔法は、恐怖や驚愕で解けることがある。

それがなくて一安心だが、ここまで近くから顔を見られると、さすがにバレるのではないという緊張が走った。

「本来であれば、寝所も共にする」

「そ、それは、成婚が成立したあとの夫婦の話しなのではっ」

ミリアは、この国で得た獣人族の結婚からそう言った。

「そうだ。しかし妻と夫となった身なのに、離れて暮らしている者同士というのはほとんど聞かない」

自分たちはただの別離状態なのでは、とミリアは思った。

しかしアンドレアが肩口に顔を埋めてきて、ガブリと首を噛まれて声は出なくなった。びくんっと身体がはねる。

「君は、獣人族のことを何も分かっていない」

噛まれた場所がじんじんと痛かった。

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