冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
以前と同じく傷は入っていないようだが、歯形はついているのではないかと思う痛みの個所を舌がなぞってきた。

生暖かなそれで窪みを押されると、鈍い痛みで熱が増す。

「お、怒ったから噛んだのですか?」

「違う。これは甘え噛みだ。構ってほしいから、俺たち獣人族は噛む」

首筋に彼の吐息があたって、ぞわぞわする。

「そして触れ合いたいから、舐める」

首から耳の後ろまでねっとりと舐められて、ミリアは掴まれている手を震えさせた。身体の奥がきゅっと切なくなる。

顔を見られてはいないが、全然安心はできない。

夫婦なのでいいのだと言って重なっているアンドレアの身体。ミリアのナイトドレスは、異性には見せない就寝用で薄くて頼りない。

(彼の高い体温が、全部伝わってくるみたい……)

夜の寝所ということもあって緊張は高まる。

「あのっ、アンドレア様、どうか落ち着いてください」

「落ち着けと? 君に来る資格がないように言われたことも遺憾だ」

アンドレアが見下ろしてきた。その目は不快感を示していて、怖いのと同時に、別人だとバレるのではないかと危惧してミリアは首をすぼめた。

(や、やっぱり怒ってるのでは)

原因が分からない。

昨日、王家のティータイムで機嫌のいい彼を見たばかりだ。

「今日、兄上のエレンヴィア城に行ったそうだな」

「……はい?」

「予想もしていなかった、か」

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