冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
吸い合うみたいだと思ったが、彼の舌は時々くすぐりもしてくる。

「……ン、んんっ……」

はしたなく出てしまう声を、アンドレアは可愛いと言って笑う。息継ぎさえもよく分からなくてじれったいだろうに、それさえも彼は楽しそうで――。

(だめ。嬉しいって思っちゃう……)

好き、そんな思いから胸の高鳴りは増す一方だった。

ミリアは身も心もとけろた。自然と口が開くと、そこに熱が割って入り、ちろりと舌同士が触れ合ってびくっとした。

その時、彼がようやく動きを止めてくれた。

顔を起こし、喘ぐミリアの熟れた唇をうっとりと指でなぞる。彼女は、これからショックを受けるのだろうなと思って彼の言葉を待った。

「――おやすみ、俺の妻」

そう告げられた挨拶に、ふと疑問が込み上げた。

(あれ? そういえば彼、姫様の名前全然口にしていないような……)

妻、姫、とは呼ばれたが、初めに確認された以来名前を呼ばれた記憶が出てこない。

こんな状況だからなのかもしれない。そうぼうっと考えて彼の顔を見つめていると、アンドレアが再び唇を寄せてきた。

「すまない。最後に、もう一度だけ」

そう言った彼の唇が、ミリアの口を優しく塞いだ。

「……んっ」

チュッと吸われた際、唇を舐められて甘い心地が広がった。

アンドレアは熱い眼差しで見つめていたが、やがて別れの言葉を実行するように上からどいてくれた。

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