冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
悠々と父に告げられ、アンドレアはぐっと言葉が詰まる。

だが、彼としてもいまさら身を引くつもりはない。

政略結婚のことなんて考えたくないのだ。あの会えなかった一件できっかけで剣の鍛錬にのめり込み、気付けば王宮所属軍司令官にまでのし上がった。

軍事が忙しいので、と結婚できない理由にしている。

それでも父は素運前から花嫁候補を直に寄越してくるようになったので、評判がどうなろうと知ったことではないと〝抵抗〟しているところだ。

「……相手が勝手に帰れば、問題ないんだな?」

半年、夫婦関係がなければ他国からの婚姻は白紙に戻る。

これまでと同じだ。

一度離縁してしまったという事実は残るが、アンドレアはそれで構わない。

あれ以来顔を見ていないあの姫には悪いが、これまでの令嬢と同じく、泣いて出ていってもらおう。

「ふうん? サンスティール国の第一王女が花嫁として来たのだぞ? 顔を見なくていいのか?」

にやにやとしている父を、今すぐぶん殴りたくなった。

(誰が見たいものか)

勝手に結婚させたうえ、よりによって相手が彼女なのも最悪だ。

「――それでは、これにて失礼します」

妻など馬鹿げている、そう思いながらアンドレアはマントを翻した。

だが辞退しようとして歩き出したところで、後ろから父の言葉がかかった。

「お前はきっと、夢中になるよ」

「……あ゛?」

愉快犯のような調子の声が、ほんと腹立たしい。

思わず心の底から睨んだら、出入り口で待っている警備兵も護衛騎士も、周りの臣下たちも「殿下っ」と慌てていた。

ジェフリルド国王はほくそ笑んでいるばかりで、父として注意もしてこない。

勝手に強制結婚までさせた癖に『会え』とも言わないし、『子を残せ』とも命令してこない。

彼が何を考えているのか、二番目の子であるアンドレアさえ分からなかった。

(――まったく、食えない父だ)

そう思いながら、彼はその場をあとにした。


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