冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
一章 とんでも獣人国王による強制結婚
それは、遡ること三か月前のことだ。
サンスティール王国で十八歳を迎えた第一王女コンスタンシアは、まだ婚約もしていなかった。
昔、療養地で屋敷を抜け出した際に男の子と出会った。
彼は旅をしている道中だったようだ。互いに愛称しか知らない状態で数日だけ交流し、彼は出立していったとか。
それからずっと、彼女は会えることはなかった彼の面影を今も捜していた。
「――うぅっ、姫様の溜息がおいたわしい!」
「ミリア、あなたは過剰反応すぎます。恋は我々にはどうしようもありません」
一緒に覗き込んでいる護衛騎士が、オレンジ色の長い髪を床につけて座り込んでいる小さな少女にそう言った。
「しかし謎のイケメン『あーくん』、ほんといったい誰なんでしょうかね?」
「陛下も『忘れられない相手がいるのに嫁がせるのは……』と考えているみたいですしねぇ」
「王妃様も、どうにか探してあげたいとおっしゃっていしたわ……」
国一番の美姫と呼ばれるコンスタンシアは、時々、一人になりたがって初恋相手に思いを馳せる。
それを、お付きのミリアや護衛や侍女たちは陰に隠れて眺めた。
「お前ら仲いいな」
それをまたしても見かけた城内の巡回の騎士達が、そう言った。
だが、その週末、誰もが予期せせぬ素敵なことが起こる。