冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
それ以外に覚えがない。

偶然にも顔を合わせてしまったうえ、まさか誠意を示して詫びられるとは思っていなかった一件だった。

(とすると、会いに行けなかったことへのお詫びの花かな?)

顔を合わせてしまったので世間体的に贈った、というのならありそうな気がする。

だが、ミリアはなんだかそわそわしてしまった。

昨日の彼の柔らかな対応のせいだろうか。まるで〝妻への機嫌取り〟のようにも思えて落ち着かない。

(いやいやいや、結婚を白紙に持っていくつもりでいるはずだし)

アンドレアは一国の王子だ。妻を放置し続けているのはさすがに、と彼を悪く言う者たちを抑えるためにも花束を贈ったのかも――。

彼が妻だけを離宮に住まわせていることは、内外にも知れ渡っていることだ。

外を歩き回らないので、噂も分からないミリアはそう想像する。

(とりあえず、まずは食べよう)

有難くも、侍女には美容にもよすぎる美味しい朝食が並んだので、早速「いただきます」と手を合わせて口に運ぶ。

離宮で彼の部下たちがヅラをかぶって〝女性たち〟のふりをしていることは、今のところミリアは知らないことになっている。カイたちだってアンドレアに報告していない。

(ま、花くらいいっか)

いい香がするし、この国の知らない花々は綺麗で心が弾んだ。

< 66 / 225 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop