冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
彼らにとって、ヅラをかぶとるいう妙な任務は苦行だった。普段からヅラをかぶりたくないとは言っていたから、大変混乱しているようだ。

ミリアは、みんなの前に立って励ました。

「いいことじゃん。就寝時間になるまでヅラをかぶって、ここに騎士の業務処理を持ち込んで仕事するなんて虚しすぎるでしょ。深夜までヅラかぶってひたすら窓の近くの広間をうろうろするとか、残業もいいとこだよ」

「ほんと、お前は好き放題言ってくれるよなぁ」

「くさぐさくるわ……」

彼らはぶつぶつ言いながらも、元気が出てきたみたいに立ち上がる。カイが「でもさ」と代表して言ってきた。

「それってお前にとってもいいことじゃないと思うんだ」

「どうして?」

その時、ノック音が上がった。

「姫、いらっしゃいますか?」

ミリアはカイたちとびくっとした。それは朝にいた侍女の声だ。

なんで、ここにいるのがバレているのか。

緊張で心臓がどくどくとした。カイたちを見たら、そんなこと自分たちも知らないと首を急ぎ振ってくる。

おそるおそる扉に歩み寄った。警戒した猫みたいに顔を覗かせてみると、予想していた侍女の一人が立っていた。

「……えっと、なぜ私がここにいると分かったのでしょうか?」

「いらっしゃらなかったので、こちらに」

侍女はにこにこしている。

「あ、なるほど」

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