冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
王宮内の散策では、顔を覚えられたのか親しげに会釈されるようになった。

変に注目されていないようだ。ミリアはそう受け留めて、気もかなり軽くなった。

その一方でかえって少し気になっているのは、初訪問から毎日続いている〝第二王子からの贈り物〟だった。

「……今日も、花とクッキー」

しかもそれを本人が持ってくる。訪ねたアンドレアと扉の線越しで向かい合ったミリアは、口がひくつく。

「今日は時間がなかったので今のタイミングになってしまった。すまない」

「えーと、ありがとうございます……?」

午前中までには持ってくる、という作法でもあったりするのだろうか。

ミリアとしては、朝一番にアンドレアの顔を見るのは心臓に悪かった。別人だと察知されないか気になる。

(……こういうのって、毎日贈るものなのかな?)

放置している詫び、みたいなものだったりするのだろうか。

それなら、数日で終わるかもしれないと受け取るたびに考えていた。しかし一週間も続くと、さすがのミリアも無視できなくなってきた。

(あれ……これってもしかして、結構大事にされてない?)

またしても花と菓子を持ってきたアンドレアを前に、それらを胸に抱えたミリアは今になってそう思い困惑する。

思い返せば、彼は手渡しながら短いながら話しをしていった。

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