冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
何が好きだとか、どんなことが楽しいのだとか――長居する時間はなくて、淑女の部屋だからと断って扉前に留まった。

そしてアンドレアは、昨日も良く過ごせましたとミリアの回答を受け取ると、それならいいと言って帰っていくのだ。

(待って。これって妻の様子をきちんと確認してくれている構図なのでは?)

一週間と一日目のアンドレアを前に、そんな推測が浮かぶ。

「それでは、また」

「は、はい、お気を付けていってらっしゃいませ……」

ミリアがそう言うと、彼はちらりと笑みを見せてマントを翻していった。

その背中が離宮を出るべく遠くなる。ミリアは社交辞令の見送り時間を設けたのち、素早く扉を締め直すと、そこにどんっと背をあてた。

(こ、これは……)

緊張感に心臓の音がすごい。

彼女は耳を澄ませ、足音が完全になくなるのを待った。そしてもういいだろうと判断した瞬間、花と菓子をテーブルに置くなり、一目散に向かいの本殿へ猛ダッシュした。

そのまま、声もかけでバーンッと開ける。

「なんだ? その変な顔」

すぐそこの第一応接室にいたカイたちが、口を一文字に引き締めたミリアを見て疑問の表情を浮かべた。

乙女に対して失礼な。

「じゃなくて。早急に意見を求めたいことがあのっ」

「なんだよ」

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