冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
「いやっ、殿下は世間体を守っているだけかも!」

自分に言い聞かせるみたいに告げたミリアに、カイが呆れ返って言う。

「随分苦しい理由だなぁ」

「だって、私と結婚続行とかおかしいよ!」

「そりゃあ、ミリアは国交をかけた身代わり中だもんな。でもさ、殿下はともかくあの人もなんも言ってこないわけで……」

カイたちが、誰か思い出したみたいにうーんと考え込む。

あの人だとかその人だかと、今はそれどころではない。ミリアはカイのいる執務席に突撃して両手をついた。

「殿下のことをちょっと調べたいと思うっ。私は引きこもってるから噂だってよく分かんないし、もしかしたら『第一王女好きかも?』説が濃厚に……!」

「落ち着けよ、なんだよそのブッ飛んだ推測は?」

「そもそも、そこは『第一王女』じゃなくて『ミリア』だろ」

「ちがうよーっ! 私は姫様を装ってここにいるだけなんだって!」

ミリアは涙目で必死の形相だった。

「うーん。俺からしても、あんた全然装えていな――ぐぇ!?」

半ばパニックになっていた彼女は、書類を手にカイの方に歩み寄ってきていた騎士のジャケットを引っ張って泣き付いた。

「どうしようっ、私身代わりなのにいぃ!」

「だ・か・らっ、うら若き淑女が抱き着くなよ! 落ち着けって!」

騎士は、ミリアをぺいっとはがした。

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