冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
とにかく落ち着けとカイたちも説得しつつ、誰もが立ち上がってじりじりと彼女から防衛線のような距離を置く。

「つうかさ、もし殿下のベクトルがマジであんたに向いているんだったら、婚姻成立してないのにこういう接触すると逆鱗になるぞ」

カイが慎重にそう言い聞かせた。

「逆鱗?」

獣人族のことをあまり知らないミリアは、きょとんとして小首を傾げた。

「というか、その距離は何?」

「お前が、抱き着かないよう対応策を取っている」

「ひどい」

いや、そんなことはどうでもいいのだ。

「とにかく情報収集だよ。ねぇ、殿下のことを知っていそうな人に心当たりはない? 私が話しかけられそうな立場でっ!」

「普通、第二王子の妻だと陛下以外なら誰でもオッケーになる気が……」

「大貴族は無理! 不敬で首が飛ぶっ」

侍女には荷が重い。ぶわっと涙目になったミリアを見て、彼らは慰めるどころか「飛び掛かるのはやめろよ!?」と言った。

「落ち着け、お前は今侍女じゃなくて〝姫〟だっ」

「うわぁあぁあもう誰か抱き着かせて!」

「お前抱き着き癖でもあんのか!? とにかく手を下ろせ、そんな良心をぐさぐさ差してくる涙は止めろってっ」

「じゃあ俺らの同僚はどうだ!? ほら、ここの軍部は殿下が見ているんだから、立場が上のクラスか王族の護衛あたりだとご家族での様子も見聞きしてる」

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