だって君が、好きって言ってくれたから。
 中学一年生の時の記憶がよみがえる。

 うちの中学の学区は、主にふたつの小学校から生徒が集まっていた。

 神楽渉くんは私とは別の、もうひとつの小学校からやってきた。それに、クラスも五クラスまであり、彼は一組、私は五組だったから美術部の存在のみで繋がっている、そんな感じだった。

 彼は放課後、誰よりも早く美術室に来て、ひとりの世界に入り、ひたすら絵を描いていた。部活の時間、誰よりも真剣に絵を描いていて、更に周りの部員が帰ってもひとりで残り絵を描いていた。

 最初は “ 神楽渉くんは絵が上手くて、不思議な人 ” としか、思っていなかった。けれど、私もある程度は絵が上手くなりたいって願望はあったから、彼の上手い絵を眺めて、どうやったらそんな風に描けるのだろうと、彼が絵を描いている姿を日々目で追うようになった。

 ひたすら観察をしていると、気がついたことがある。

 彼は絵を描き始めると、違う世界に行っているようになる。描き始める前となんとなく雰囲気が変わるのが分かる。描くのが好きなんだなと、少し離れた席から見ても伝わってきた。
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