だって君が、好きって言ってくれたから。
 秋頃だったかな?

 私も部員達が帰った後、残って絵を描くようになっていった。残って描くようになったきっかけは、部員達が帰った後も彼は黙々と絵を描いているのかな?って、ただの好奇心。

 私が宿題やる時みたいに、ひとりになると漫画読んだり、他のことをはじめちゃったりしないのかな?って。

 それは違った。

 彼は、何ひとつ変わることなく描くことに集中していた。

 美術室にふたりきりでいる時、最初は彼の席と離れた席で私は自分の絵を描いていたけれど、やがて、彼の隣で描くようになった。

 必要最低限の会話しかしない。

 描いているふりをして、横目でちらり視線をやる。

 彼は私の視線には一切気がつかないで、画用紙に描いている紫陽花に、絵の具の柔らかな水色を載せていた。さらさらとその絵の命を深めるように。

「神楽くんの描く花、好きだな……」

 私がぽつりそう呟くと、彼は両眉を上げ、こっちを二度見してきた。そして、動きを止めた。

 私は、黙々と進めていた彼の作業を妨げ、とても申し訳ない気持ちになり「ごめんね」と謝った。

 彼は「うん」と頷いて、その後、何事も無かったかのように再び絵を描いていた。
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