だって君が、好きって言ってくれたから。
「これ、私の? 中学の時なくしたやつ……」

 鞄に付けていて、落としてなくしたと思っていた、コスモス柄の小さな鏡のキーホルダー。当時、その柄にはまっていて、ペンケースとか文房具もコスモス柄で揃えていた。

 彼はそれを見ていて、覚えていて……。
 だから私がコスモス好きな事を?

「これ、拾った時からずっと如月さんに渡さないとって思ってたんだけど、遅くなって、ごめん」

「ごめんも何も……。もう十年ぐらい経ってるのに、よく捨てないでいてくれたね!」

「うん。中学の時に、僕の描いた花の絵を、如月さんが好きって言ってくれて、実はあれから花の絵を描くことに自信が持てたんだ」

 えっ? あの何気なく言ったひとことが?

「その言葉を、如月さんが落としたこの鏡に詰め込んで、夢を叶える為のお守りみたいにして持ち歩いていた。ありがとう。そして返すね」

「えっ? でもそんな大切に持ってくれてるなら、そのまま持っててもいいよ?」

「でも、もとは如月さんのだし……」

 しばらくそんな会話が繰り返された後、私は言った。

「じゃあ、その鏡、あげます。その代わり、絵を描いている姿、近いうちにまた見せてもらってもいい?」

 ちょっと間があったけれど、彼は「うん」と、微笑みながら頷いてくれた。
 
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