秋恋 〜愛し君へ〜
何もする気力がなく事務所でボーッとしていたが、だんだん彼女のことが心配になってきた。全てが俺の勝手な思い込みで、本当は誰もいないんじゃないか。もしそうだとしたら、また熱をぶり返して一人で苦しんでいるんじゃないか。そう思うと自然に足は彼女のアパートへ向かっていた。

俺は彼女の部屋の玄関が見える通りまでやってきた。気を取り直し、一歩踏み出そうとしたその時だった。一人の男がコンビニの袋を片手にアパートの階段を上っていった。彼は2階の通路に姿を見せた。その瞬間、俺の体から血の気が引いた。彼は201号室、202号室をゆっくり通り過ぎると、彼女の部屋の玄関の前で立ち止まった。ポケットから何やら取り出すと、慣れた手つきで玄関のドアを開け中に入っていた。合鍵?

笠原さん…どうして…

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