秋恋 〜愛し君へ〜

新しき道

それから一週間、俺たちはすれ違いが多く、顔合わせても仕事以外の話をする事はなかった。だから二人がどうなったのか、俺には全くわからなかった。少しだけ不安になってきた頃、俺たちは同じ早番になった。俺は仕事も定時で終わり、樹より一足先に事務所に戻った。事務所ではヒロシをはじめ、早番連中がボーリングに繰り出すなどと話していた。

「秋さん、今からボーリングどうですか?」

「ボーリング?合コンじゃねぇーのかよ」

俺はヒロシの耳元で囁いた。わざとだ。

ヒロシは一瞬ビクッとし「すみせんでした!」深々と頭を下げた。

「でも、今日はマジでボーリングですから行きましょうよ」

その時だった。勢い良く事務所のドアが開き

「お疲れさーん!」

勇次だった。

「おーーーーっ!勇次さん!この前はありがとうございました」

「あ〜気にすんなや」

ヒロシの肩をポンと叩いた。

「お前何やってんだよ休憩?」

「ブッブーッ!もう上がりや。秋ちゃんおったら一緒に帰ろう思て迎えに来たんやがなぁ俺らラブラブやろ〜」

「アホか」

「まぁた照れよってからにぃ〜」

「そうだ勇次さんも行きましょうよ、ボーリング」

「ボーリング?ええよぉ秋も行くんやろ?」

「行きます!」ヒロシがすぐさま答えた。

「おいおい、俺はまだ何も言ってねーだろ」

その時、またドアが開いた。樹だ。

「あら、日高くん久しぶりね。相変わらず元気そう。なんか貫禄も出てきたんじゃない」

「そうですやろ。せやけど樹さんも相変わらず美しいでんなぁ」

「な、何言ってんの!」

恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あっ、せや、樹さん、もう上がりとちゃうんですか?」

「うん、上がり」

「なんや今からボーリング行くらしいんですわ。行きまへんか?」

「そうね、行くわ!」

「ほな決まりや!早よ行くでぇ」

「なんでお前が仕切ってんだよ」

「結局何人や?7人か?せやなぁ、もう1人おった方がええなぁ、4vs4や。あ!あいつがおった」

「何一人でブツブツ言ってんだよ」

「俺がもう一人連れてくるさかい、任せときや」

「誰も何も言ってねぇだろ」

勇次は一人で納得し、事務所を出て行った。

俺、樹、ヒロシ、ヒロシと同期の舞子、入社一年目の男女二人は従業員出入口付近で勇次を待った。

「お待ちどうさ〜ん。助っ人連れて来たでぇ」

勇次の隣には、手を振りながら笑顔を振りまく野添がいた。

「長谷川く〜ん久しぶりだねぇ」

「おう、野添、お前今どこにいるんだっけ?」

「ブライダルだよ」

「あぁ、そうか、お前宴会の方だったな」

「うん、そうだ、え?え?え?え?」

俺と会話していた野添の視線は別の方を向いている。

「え?え?あのぅ、岩切樹さんですか?」

「ええ、岩切です」

「うわぁ、本物だ」

「え?本物?」

「僕のセクションで岩切さん有名なんです!うわぁ、光栄だなぁ。僕、野添と言います。日高くんと長谷川くんの同期です。今、ブライダル課にいます。よろしくお願いします」

そう言って握手を求めた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

樹は笑顔で握手をした。
両手で樹の手を握る野添に、気安く触ってんじゃねぇよ!とガンを飛ばした。

「長谷川くん、目つきなんか怖いよ」

「野添、今更何言うとんねん」

「そうだね」

「何がそうだね。だよ!お前ふざけんなよ」

「ほな行こかぁ」

俺たちは8人で新宿東口にあるボーリング場へ向かい、4人ずつに分かれゲームをした。勿論俺は樹と同じチームだ。俺がチーム分けをした。誰にも文句は言わせない。
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