秋恋 〜愛し君へ〜
「私…」

新入社員が遠慮がちに口を開いた。

「私、2Hさんって凄くかっこ良くて仕事もできるけど、冷たくて怖い人だと思ってました。すみません、生意気言って」

「冷たいて俺もかいな」

「日高さんはそうじゃないんですけど…」

皆の視線が俺に集中する。

「お、俺?」

「せや、お前や。お前がイメージ下げとんねん、2Hの!」

「な、なんだよ!」

「秋さん、俺はわかってます。決して冷たいんじゃないんですよね。ただ冷めてるってだけですよね」

「せやせや、冷めとんねん。秋ちゃん笑顔笑顔」

「それってサービス業失格ってことじゃねーかよ」

「そうじゃないんですよ。接客の時はマジイイ顔してますもん」

「そうよね。凄くイイ顔してるわ。私がお客さんになりたいもの」樹が目を輝かせている。

「私もーっ」

舞子が手を挙げる。ヒロシも新入社員も。

「僕もーっ」野添も

「俺もやぁ」勇次も

「お前らおちょっくってるだろ。ハイハイ、わかったから、誰だよ次投げるの」

俺は話を断ち切った。

「お前や」

「あ、俺か」

それからバカ話をしながらもうワンゲームやった。皆笑っていた。

ゲームを終え、建物の外まで出てきた時、勇次が顔をしかめた。

「腹減ったなぁ」

「はい!俺も腹減りました」

「ほな、なんか食いにでも行こかぁ。今日は俺の奢りや」

「マジで?お前太っ腹だなぁ。何食わしてくれんだよ」

「はぁ?誰がお前に奢る言うた」

「なんだよ」

「後輩ちゃんオンリーや、あ、野添もな」

「えーっ、僕もいいの?やったぁ」

「野添は同期だろうよ」

「野添は別や。お前の恩人やしなぁ」

「お前、昔のこと持ち出すなよ。ケチ!」

「ケチで結構!お前は樹さんに奢ってもらえや」

「ふざけんなよ」

「ふざけとらんわい。ええですやろぉ樹さん」

「え、ええ勿論」

「ほな、この無愛想よろしゅう頼んます」

「勇次!」

「なんならお前が奢ったれ。男やさかいに」

「おーおー、言われなくてもそうしますよ」

「そかぁ、ほな、俺らは行くでぇ、さいなら」

勇次は5人を連れてネオン街に消えて行った。
< 32 / 70 >

この作品をシェア

pagetop