秋恋 〜愛し君へ〜
年が明けた1月中旬、俺たちは公開テストに挑んだ。自分でも驚くほど流れてくる会話やナレーションを理解することができた。印刷された条文も何とか黙読でき自信はないがマークシートの解答用紙は全て埋まった。
達成感、初体験だ!

会場を出て喫煙シートで一服しているところに勇次がやって来た。

「吸うか?」

「せやなぁ」

そう言いながらシートに腰掛け、俺の差し出したSALEM LIGHTSを手に取り火をつけた。

「なぁ勇次、なんでお前もそんなに突っ走るんだよ?」

「お前と同じやねん」

「俺と?」

「お前見とったら、俺ももしかして、思てな」

「もしかして?」

「俺、好きやねん!」

勇次はまだほとんど吸っていない煙草ををシート横にある灰皿でもみ消した。

「夏姉にめちゃめちゃ惚れとんねん!」

俺は吸いかけの煙でむせ返り咳き込んでしまった。

「マ、マジで⁉︎」

「そうやぁ。あんなべっぴん他にどこにおんねん。あっ、せや、樹さんがおったな」

「マジかよ…」

「お前、ホンマに気づけへんかったんかぁ?」

横目で俺を見た。

「あ、あぁ」

「中学ん時、初めて会うた夏姉に一目惚れしてしもた。俺、お前が羨ましかってん。切っても切れへん血で繋がっとるやさかいに。せやけど今はホンマ良かった思とんねん。姉弟で一緒にはなられへんよってな」

「勇次…」

「あーあーっ、夏姉は俺を男として見てくれとらへんのやろなぁ」

伸びをしながらそう言う勇次に言ってやった。

「そうでもないかもな」

  『イイ男にお金を使うって最高よ!』

姉貴の言葉が浮かんでいたから。


俺は公衆電話で実家に電話をかけた。

「はい、長谷川です」

姉貴だった。休みだが何もすることがなく家にいたらしい。が、俺が推測するに、きっと俺からの連絡を待っていたに違いない。
休日が休日でなくなるくらい自分を追い詰めるようになんだかんだと予定を入れる。そんな姉貴が日曜の午後3時という時間にすることがないなんてあるはずがない。

「姉貴、サンキューな」

「何言ってんの、あんた。礼ならちゃんとクリアしてから言いな」

姉貴らしい返答だった。

勇次はちゃんとわかっていたのだ。姉貴がイイ女だということを俺なんかよりもずっとずっと前から…
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