秋恋 〜愛し君へ〜
2月も中旬に差し掛かった月曜日、俺は実家にいた。そろそろ結果が届くはずだ。
昼飯を食べ終わった頃、バイクの音が止まった。きっと郵便だ。砂利を踏む人の足音、ガチャンという音、再び砂利を踏む音、エンジンをかける音、バイクが去っていった。
俺は郵便受けを開けた。やっぱり郵便だった。何通かのダイレクトメールに混じって、あった!TOEICの結果が。
俺はすぐさまリビングに置いてあるハサミで慎重に封を切った。そして目を瞑り、瞑った目をゆっくりと開けた。

TOTAL SCORE  805

確かにそう書いてある。俺は拳を握りしめ思わず「よしっ!」と漏らしてしまった。
とにかく姉貴に連絡せねば。お袋に姉貴の会社の番号を聞き電話をかけた。

「何?」

「805」

姉貴は俺のその一言で理解したようだった。

「やったじゃん!でも、推薦されなきゃ意味ないけどね」

「マジ、サンキューな」

「早いとこ出しちゃいな、申込書」

「おう、じゃあな」

俺は結果を握り締め、原チャリを飛ばした。
マンションの鍵を開け中に入ると、樹は洗濯物を畳んでいた。俺は樹に飛びつくように抱きついた。

「やったよ!俺、やったんだ」

正座のまま固まっている樹にシワシワになってしまった結果を差し出した。

「秋ちゃん!やったね!凄いよ!おめでとう」

「うん」

「今日はお祝いしなきゃね」

俺は樹を押し倒し唇に何度もキスをした。

「樹、俺明日申し込む。もし研修に行ってしまったら一年は会えない。必ず黒服になって帰ってくる。それまで待っててくれるかな」

樹は優しく微笑み頷いた。

俺は倒れて横になったままの樹の体を起こし、力強く抱きしめた。

「痛いよ秋ちゃん」

その声は俺の胸に遮られ、モゴモゴとほとんど言葉になっていなかった。

「さっ、お祝いの準備しなきゃ。秋ちゃん何食べたい?」

樹は俺の手を取った。

「なぁ樹、今日はさぁ、どっか食いに行こうぜ。俺デートしてーよデート、いいだろ?」

「うん、わかった。でも、なんか照れちゃうねデートなんて」

「だよな」

俺たちは顔を見合わせて笑った。
そんな時電話のベルが鳴った。

「誰かな?」

「さぁ」

俺は仕事の呼び出しでないことを願った。

「はい、岩切です。もしもし?……舞ちゃん?泣いてるの?どうしたの?どこにいるの?…うん、うん、うん、そう、わかった。待ってて、すぐ行くからそこ動いちゃダメだよ」

樹は受話器を置いた。

「舞子どうかしたの?」

「うん、でもよくわかんないの。ずっと泣いてて。私迎えに行ってくる。登戸の駅にいるみたいだから」

「わかった」

樹はとるものもとりあえず部屋を出て行った。
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