秋恋 〜愛し君へ〜
出発まであとわずか。俺はできるだけ樹と過ごす時間をキープした。相変わらず外出する事はあまりなく、ほとんどマンションで過ごした。
朝の光で目を覚まし、樹の寝顔を目に入れる。そっと額にキスをすると、まだ眠そうな目をこすりながら「おはよう」と微笑む。ベッドから抜け出そうとする樹の手を引っ張って俺に引き寄せ起こさせないようにする。
「もう何するの」そう言って尖らせた唇にキスをする。しばらく樹の髪を撫でながら俺の瞳に樹を焼きつける。ようやくベッドから抜け出し、顔を洗い朝飯の用意をする。俺はベッドに寝転がったまま、フライパンの上で生卵が半熟の目玉焼きになる音や、オーブンで食パンが焼かれている音を聴く。
「できたよ、食べよう」その声で俺ももそもそとベッドから抜け出す。
「また靴下裏返しのままにして」ぶつぶつ言いながら洗濯している樹の後から「ごめん」と腕を回す。
洗い上がった洗濯物を干す姿を俺はソファーを背もたれに床に座り、タバコを吸いながら眺める。
「秋ちゃん早くしなきゃ遅刻しちゃうよ」
そう言われ、重い腰を上げ身支度をしてマンションを出る。
オフの日は部屋着のまま俺はビデオを観る。その間樹は、固く絞った雑巾を片手に部屋中を拭き上げていく。樹は掃除が大好きだ。
洗濯物を畳んでいる樹の膝に頭を乗せ、好きなバイク雑誌を見る。
「もーっ畳めないんだけど」
頬を膨らます樹に向かい、雑誌を胸に置き、べーっ!と舌を出してみる。樹はそんな俺の鼻をキュッとつまむ。
渋々ソファーに移動すると、しばらくしてお気に入りの単行本を手に、コンポのスイッチを入れ、俺の横に腰掛ける。俺はすぐさま樹の膝を枕にし横になる。
2人掛けのソファーは183センチある俺の背には狭すぎて足が思いっきりはみ出す。でも、そのまま寝てしまうのだ。樹の大好きなセンスの曲を聴きながら…
俺が昼寝している間、樹は立ち上がることもせず、じっと本を読んでいる。そして自分の羽織っていたカーディガンを俺の腹の上にそっとかけてくれるのだ。たとえそれが嘘寝であろうが…
夕日が顔を出し樹は夕飯を作る。俺はテレビを観ながらそれを待つ。時々つまみ食いする俺の手をペチッと叩く。
出来上がった料理を2人で話をしながら食べる。そして食後にはコーヒー。いつも樹はカフェオレを飲む。風呂に入り、俺はビールを、樹は梅酒を飲む。
あくびが出るとベッドに入る。樹は必ずキッチンを綺麗に片付けてから俺の横にスルスルッと入り込んでくる。俺は樹をしっかり抱き寄せてから額にキスをする。
「おやすみ」
樹の笑顔を確認してから目を閉じる。
そんなちょっとだけまったりとした二人だけの生活が、俺にとっての幸せだった。樹がそばにいれば、俺はそれだけで充分だった。
3月5日、出発の日がやってきた。
「ごめんね、空港まで行けなくて」
「いいよ。仕事なんだ仕方ないよ」
俺は樹を抱き寄せた。
「ちょっと痩せたんじゃないか?」
「そう?」
「ちゃんと食べなきゃだめだぞ。俺たちの仕事は体力勝負だからな」
「うん大丈夫。いつもちゃんと食べてるでしょ」
「そうだな」
「そうよ」
樹は俺を見つめ「秋ちゃんのスーツ姿とっても素敵ね」そう言った。
「惚れ直した?」
樹ははにかみながら頷いた。
俺は樹の艶やかな黒髪を撫で、額にキスをした。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、秋ちゃん、気をつけてね」
「わかった」
俺はマンションの前に待たせておいた実家から乗ってきたタクシーに乗り込んだ。樹は降りてはこなかった。マンションの2階の通路から手を振る事はせずに、ただずっと俺を見つめていた。
朝の光で目を覚まし、樹の寝顔を目に入れる。そっと額にキスをすると、まだ眠そうな目をこすりながら「おはよう」と微笑む。ベッドから抜け出そうとする樹の手を引っ張って俺に引き寄せ起こさせないようにする。
「もう何するの」そう言って尖らせた唇にキスをする。しばらく樹の髪を撫でながら俺の瞳に樹を焼きつける。ようやくベッドから抜け出し、顔を洗い朝飯の用意をする。俺はベッドに寝転がったまま、フライパンの上で生卵が半熟の目玉焼きになる音や、オーブンで食パンが焼かれている音を聴く。
「できたよ、食べよう」その声で俺ももそもそとベッドから抜け出す。
「また靴下裏返しのままにして」ぶつぶつ言いながら洗濯している樹の後から「ごめん」と腕を回す。
洗い上がった洗濯物を干す姿を俺はソファーを背もたれに床に座り、タバコを吸いながら眺める。
「秋ちゃん早くしなきゃ遅刻しちゃうよ」
そう言われ、重い腰を上げ身支度をしてマンションを出る。
オフの日は部屋着のまま俺はビデオを観る。その間樹は、固く絞った雑巾を片手に部屋中を拭き上げていく。樹は掃除が大好きだ。
洗濯物を畳んでいる樹の膝に頭を乗せ、好きなバイク雑誌を見る。
「もーっ畳めないんだけど」
頬を膨らます樹に向かい、雑誌を胸に置き、べーっ!と舌を出してみる。樹はそんな俺の鼻をキュッとつまむ。
渋々ソファーに移動すると、しばらくしてお気に入りの単行本を手に、コンポのスイッチを入れ、俺の横に腰掛ける。俺はすぐさま樹の膝を枕にし横になる。
2人掛けのソファーは183センチある俺の背には狭すぎて足が思いっきりはみ出す。でも、そのまま寝てしまうのだ。樹の大好きなセンスの曲を聴きながら…
俺が昼寝している間、樹は立ち上がることもせず、じっと本を読んでいる。そして自分の羽織っていたカーディガンを俺の腹の上にそっとかけてくれるのだ。たとえそれが嘘寝であろうが…
夕日が顔を出し樹は夕飯を作る。俺はテレビを観ながらそれを待つ。時々つまみ食いする俺の手をペチッと叩く。
出来上がった料理を2人で話をしながら食べる。そして食後にはコーヒー。いつも樹はカフェオレを飲む。風呂に入り、俺はビールを、樹は梅酒を飲む。
あくびが出るとベッドに入る。樹は必ずキッチンを綺麗に片付けてから俺の横にスルスルッと入り込んでくる。俺は樹をしっかり抱き寄せてから額にキスをする。
「おやすみ」
樹の笑顔を確認してから目を閉じる。
そんなちょっとだけまったりとした二人だけの生活が、俺にとっての幸せだった。樹がそばにいれば、俺はそれだけで充分だった。
3月5日、出発の日がやってきた。
「ごめんね、空港まで行けなくて」
「いいよ。仕事なんだ仕方ないよ」
俺は樹を抱き寄せた。
「ちょっと痩せたんじゃないか?」
「そう?」
「ちゃんと食べなきゃだめだぞ。俺たちの仕事は体力勝負だからな」
「うん大丈夫。いつもちゃんと食べてるでしょ」
「そうだな」
「そうよ」
樹は俺を見つめ「秋ちゃんのスーツ姿とっても素敵ね」そう言った。
「惚れ直した?」
樹ははにかみながら頷いた。
俺は樹の艶やかな黒髪を撫で、額にキスをした。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、秋ちゃん、気をつけてね」
「わかった」
俺はマンションの前に待たせておいた実家から乗ってきたタクシーに乗り込んだ。樹は降りてはこなかった。マンションの2階の通路から手を振る事はせずに、ただずっと俺を見つめていた。