秋恋 〜愛し君へ〜
俺の耳にお袋さんのすすり泣く声が聞こえてきた。
「親父、俺たちにできることはもう何もない。樹が残された時間を笑顔で過ごすには、長谷川秋って男が必要なんじゃないのか?」
「お父さん、私は本当のことを言いますけど、樹の花嫁姿とっても見たいんですよ。お父さんもそうでしょ」
「でもなぁ、あちらのご両親がなぁ」
「親にはちゃんと納得してもらいました。樹さんも、みんなに祝福されなきゃ承諾してくれないと思うから、先にお許しをいただきたかったんです。どうかお願いします」
「長谷川くん、もう頭を上げてくれんかね。君は落ちこぼれなんかじゃない。立派な男性だ。樹にはもったいないくらいだよ。君に頼んでもいいかね、樹のこと」
俺は頭を上げた
「許してもらえるんですか?」
親父さんは大きく頷いた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
俺は何度も何度も繰り返した。
俺は樹に会いたくて、泊まっていくように言われたのも断り、広樹さんに病院まで送ってもらった。彼は俺を降ろすと「今度飲みに付き合ってくれ」一言そう言った。
俺は嬉しかった。自分が本当に認められたような気がしたから。
「秋ちゃん泊まらなかったの?大丈夫?」
ベッドに横になっていた樹が身体を起こしながら言った。
「ほら、また、罰金100円。なんて、平気だよ、心配すんな」
「だって…」
「座ってて平気か?ちょっとベッド起こそう」
「ありがとう」
「今日ハンバーグ食ったよ。樹のと同じ味だった。美味かった。豆腐、嫌いだったんだな。どおりで豆腐の味噌汁作ってくれないはずだな。黙ってただろ」
樹は俯いた。
「樹」
「ん?」
顔を上げた樹を俺は焼き付けるようにしっかりと見つめた。初めて会ったあの時と同じように、大きく澄んだ黒い瞳に俺の分身が吸い込まれている。
「俺と結婚してくれないか」
「……」
「樹?」
樹はしばらく固まっていた。
俺がもう一度樹の顔を見てそう言うと、樹は突然震えだした。
「できない、できないよ。私はもうすぐ死んじゃうんだよ。結婚しても何もしてあげられない。何も」
かぶりを振った。最初はゆっくりだったけれど、段々激しくなった。俺はそんな樹の両腕を力いっぱい掴んだ。
「樹、聞いてくれ。聞くんだ樹!」
樹の震えが止まらない。
「俺だって、明日何かの事故に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。人の寿命なんて誰にもわからない。だろ?だから俺、後悔する人生なんて送りたくねーんだ。それになんで勝手に決めんだよ。何もしてあげられないなんてふざけんなよ。俺は樹が傍にいてくれるだけでそれだけでいいんだ。俺の奥さんとして傍にいて欲しいんだよ。時間はあまりないのかもしれない。それでもその時が来るまで、俺は一緒にいたいんだ。樹の旦那として傍にいたいんだよ。俺、ダメかな。そんなに頼りないかな」
「そんなこと、そんなことない!」
「だったらいい加減甘えてくれないか。樹、結婚してくれるな、返事は?」
樹は両手で涙を拭いながら微かに頷いた。俺は樹を胸に引き寄せた。樹の震えが収まるまで、ずっと抱きしめていた。
「親父、俺たちにできることはもう何もない。樹が残された時間を笑顔で過ごすには、長谷川秋って男が必要なんじゃないのか?」
「お父さん、私は本当のことを言いますけど、樹の花嫁姿とっても見たいんですよ。お父さんもそうでしょ」
「でもなぁ、あちらのご両親がなぁ」
「親にはちゃんと納得してもらいました。樹さんも、みんなに祝福されなきゃ承諾してくれないと思うから、先にお許しをいただきたかったんです。どうかお願いします」
「長谷川くん、もう頭を上げてくれんかね。君は落ちこぼれなんかじゃない。立派な男性だ。樹にはもったいないくらいだよ。君に頼んでもいいかね、樹のこと」
俺は頭を上げた
「許してもらえるんですか?」
親父さんは大きく頷いた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
俺は何度も何度も繰り返した。
俺は樹に会いたくて、泊まっていくように言われたのも断り、広樹さんに病院まで送ってもらった。彼は俺を降ろすと「今度飲みに付き合ってくれ」一言そう言った。
俺は嬉しかった。自分が本当に認められたような気がしたから。
「秋ちゃん泊まらなかったの?大丈夫?」
ベッドに横になっていた樹が身体を起こしながら言った。
「ほら、また、罰金100円。なんて、平気だよ、心配すんな」
「だって…」
「座ってて平気か?ちょっとベッド起こそう」
「ありがとう」
「今日ハンバーグ食ったよ。樹のと同じ味だった。美味かった。豆腐、嫌いだったんだな。どおりで豆腐の味噌汁作ってくれないはずだな。黙ってただろ」
樹は俯いた。
「樹」
「ん?」
顔を上げた樹を俺は焼き付けるようにしっかりと見つめた。初めて会ったあの時と同じように、大きく澄んだ黒い瞳に俺の分身が吸い込まれている。
「俺と結婚してくれないか」
「……」
「樹?」
樹はしばらく固まっていた。
俺がもう一度樹の顔を見てそう言うと、樹は突然震えだした。
「できない、できないよ。私はもうすぐ死んじゃうんだよ。結婚しても何もしてあげられない。何も」
かぶりを振った。最初はゆっくりだったけれど、段々激しくなった。俺はそんな樹の両腕を力いっぱい掴んだ。
「樹、聞いてくれ。聞くんだ樹!」
樹の震えが止まらない。
「俺だって、明日何かの事故に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。人の寿命なんて誰にもわからない。だろ?だから俺、後悔する人生なんて送りたくねーんだ。それになんで勝手に決めんだよ。何もしてあげられないなんてふざけんなよ。俺は樹が傍にいてくれるだけでそれだけでいいんだ。俺の奥さんとして傍にいて欲しいんだよ。時間はあまりないのかもしれない。それでもその時が来るまで、俺は一緒にいたいんだ。樹の旦那として傍にいたいんだよ。俺、ダメかな。そんなに頼りないかな」
「そんなこと、そんなことない!」
「だったらいい加減甘えてくれないか。樹、結婚してくれるな、返事は?」
樹は両手で涙を拭いながら微かに頷いた。俺は樹を胸に引き寄せた。樹の震えが収まるまで、ずっと抱きしめていた。