秋恋 〜愛し君へ〜
2日目の研修が始まった。
「諸君、昨日の見学はどうだったかな?さて今日は、残りのレストラン部を見学してもらう。まず初めにレストラン部の説明だが、この部は諸君も既に知っているように、お酒を主とする飲料課、食を主とするレストラン課に分かれる。これらの課は全部で9店舗あるが、そこにはすべて、バスボーイ・ウエイター・シェフウエイター・キャプテン・サブマネージャー(サブマネ)・マネージャーというポジションがある。キャプテンと言われる者達以上がいわゆる黒服だ。この黒服たちの指示を受けて、シェフ以下の者たちが動き、店を廻していく。実際サブマネとマネージャーはほとんど表には出ないので、店内の指導権はすべてキャプテンが握っている。ウエイターを生かすも殺すも、売り上げが伸びるも落ちるも、キャプテンの腕次第と言うわけだ。そして、このキャプテンを直接補佐するのがシェフウエイターだ。君たちには是非このシェフたちの動きをしっかりと見学してほしい。ちなみにシェフの見分け方だが、男性は制服の肩の部分にラインが入っている。女性は首のリボンがストライプだ。それでは早速、男性グループは午前中に飲料課、午後はレストラン課を見学してもらう。女性グループは逆だ。そして全てを見学し終えたら、またこの場に戻ってくるように。希望を取りたいと思う。以上解散」
俺たちは最上階にあるバーを見学した。とはいっても、朝っぱらからオープンしているわけがなく、ほとんどカクテルの作り方とか接客の仕方とか説明だけだった。そうやって飲料課全てが説明で終わってしまったのだ。無理もない。しかし、レストラン課は違った。ほとんど説明はなく、先輩たちの動きや、店内の流れを実際に見学した。でも俺は、そんな事よりも何よりも、この大勢のスタッフから彼女を探し出す事の方が先だった。見学ももうすぐ終わるというのに見つからない。密かになんて言ってられない。今日はオフなのだろうか?とさえ思い始めていたその時
「次はフォレストです」
先輩の一声で俺は固まった。俺だけじゃない。勇次も野添も、グループ全員だ。
それは、研修当時から噂されていた『カフェレストランフォレスト』通称殺人レストランと言われる。このホテルで最も過酷なセクションだ。配属された人の中には1日持たずに辞めてしまう者、体調崩して病院と友達になる者、精神に異常をきたす者など、あくまで噂なのだが、冗談抜きで厳しさは天下一品らしい。そんな境遇を切り抜けてきた者はどこに行ってもやっていけると言われている。事実ホテル創業時以来唯一赤字になったことがないのだ。
一生関わりたくない。俺には無縁の場所。だから見学も必要ない。そう思っていた。けれど、俺の気持ちとは裏腹に、足は1階にあるフォレストへと向かっている。そして、とうとう足を踏み入れてしまった。俺の人生のいい加減さを責めているような空気だった。息苦しい。一刻も早くこの場から離れたい。逃げ出したかった。
「諸君、昨日の見学はどうだったかな?さて今日は、残りのレストラン部を見学してもらう。まず初めにレストラン部の説明だが、この部は諸君も既に知っているように、お酒を主とする飲料課、食を主とするレストラン課に分かれる。これらの課は全部で9店舗あるが、そこにはすべて、バスボーイ・ウエイター・シェフウエイター・キャプテン・サブマネージャー(サブマネ)・マネージャーというポジションがある。キャプテンと言われる者達以上がいわゆる黒服だ。この黒服たちの指示を受けて、シェフ以下の者たちが動き、店を廻していく。実際サブマネとマネージャーはほとんど表には出ないので、店内の指導権はすべてキャプテンが握っている。ウエイターを生かすも殺すも、売り上げが伸びるも落ちるも、キャプテンの腕次第と言うわけだ。そして、このキャプテンを直接補佐するのがシェフウエイターだ。君たちには是非このシェフたちの動きをしっかりと見学してほしい。ちなみにシェフの見分け方だが、男性は制服の肩の部分にラインが入っている。女性は首のリボンがストライプだ。それでは早速、男性グループは午前中に飲料課、午後はレストラン課を見学してもらう。女性グループは逆だ。そして全てを見学し終えたら、またこの場に戻ってくるように。希望を取りたいと思う。以上解散」
俺たちは最上階にあるバーを見学した。とはいっても、朝っぱらからオープンしているわけがなく、ほとんどカクテルの作り方とか接客の仕方とか説明だけだった。そうやって飲料課全てが説明で終わってしまったのだ。無理もない。しかし、レストラン課は違った。ほとんど説明はなく、先輩たちの動きや、店内の流れを実際に見学した。でも俺は、そんな事よりも何よりも、この大勢のスタッフから彼女を探し出す事の方が先だった。見学ももうすぐ終わるというのに見つからない。密かになんて言ってられない。今日はオフなのだろうか?とさえ思い始めていたその時
「次はフォレストです」
先輩の一声で俺は固まった。俺だけじゃない。勇次も野添も、グループ全員だ。
それは、研修当時から噂されていた『カフェレストランフォレスト』通称殺人レストランと言われる。このホテルで最も過酷なセクションだ。配属された人の中には1日持たずに辞めてしまう者、体調崩して病院と友達になる者、精神に異常をきたす者など、あくまで噂なのだが、冗談抜きで厳しさは天下一品らしい。そんな境遇を切り抜けてきた者はどこに行ってもやっていけると言われている。事実ホテル創業時以来唯一赤字になったことがないのだ。
一生関わりたくない。俺には無縁の場所。だから見学も必要ない。そう思っていた。けれど、俺の気持ちとは裏腹に、足は1階にあるフォレストへと向かっている。そして、とうとう足を踏み入れてしまった。俺の人生のいい加減さを責めているような空気だった。息苦しい。一刻も早くこの場から離れたい。逃げ出したかった。