もし君の世界から僕だけが消えても。
第1章
落下
人間は多分、昔から木の下が好きだったんだと思う。
かのニュートンは木の下で休んでいて万有引力を発見したし、
日本で94番目に多い苗字は木下、でもある。
ここに来る度、僕の苗字も木下なら良かったのにな、といつも思った。
久々野だなんていけすかない苗字よりも、
寛大で優しい響きのその苗字を僕はとても気に入っていて。
─とにかく、今日も僕は木の下でじっくり本を読んでいた。
僕が想像するような黄色くて小さな鳥はいないが、この公園にさえずりが聞こえない日はない。
時折ランニングをする人が通り過ぎたり、野良猫が僕の膝に乗ったり。
そしてその中に僕だけがいる、僕の世界だ。
文章をじっくり目で追いながら、頬で風を感じ取る。
僕は落ちてきた葉っぱを1枚、栞がわりに挟んだ。
そのまま本の世界に入り込んでいく。
今読んでいる本は古代日本の神話についてだ。
大好きな雰囲気に包まれながら、高校生にもなってそんなの読むのかよ、と僕の中で誰かが囁く。
─僕は僕が嫌いだ。
17年間ずっと1人だから。
信頼出来る友達も出来たことが無い。
居るのは両親と、それから飼ってる犬だけ。
だけど本の世界はそんなのを忘れさせてくれる。
いわば初めての友達みたいなもんだ。
いつも学校の帰りにこの公園に立ち寄って本を読む。
僕とニュートンを重ねて、そして孤独を必死に受け入れる。
そんな時いつも、背中から温もりを感じさせてくれるのがこの木だった。
この木はいつからあるのかわからないくらいに大きくて、同じくらい優しい。
僕はこの木が大好きだ。
特に、たまに風で木が揺れて1箇所から鋭く光が差し込むところが、
何も無い僕の人生を照らすスポットライトみたいに感じられて好きだった。
「…久々野くん、だよね」
どのくらい時間が経ったか分からなかった。
ただ夢中で字を追っていて─だから、人の気配も感じなかったらしい。
頭上から聞こえたその声に、僕は急いで顔を上げる。
長い黒髪を胸の辺りまで下ろした君が、立っていた。
美しい髪は白い制服との対比でより黒く、艶を感じさせながら輝く。
僕が目を見開いたその瞬間、風が吹いて、栞にしていた葉っぱが飛ばされた。
君の髪の毛も同時に風になびく。
葉と葉の間にぽっかりと隙間ができて、
太陽の光が大きく君を照らした。
運命の相手に、出会った。
かのニュートンは木の下で休んでいて万有引力を発見したし、
日本で94番目に多い苗字は木下、でもある。
ここに来る度、僕の苗字も木下なら良かったのにな、といつも思った。
久々野だなんていけすかない苗字よりも、
寛大で優しい響きのその苗字を僕はとても気に入っていて。
─とにかく、今日も僕は木の下でじっくり本を読んでいた。
僕が想像するような黄色くて小さな鳥はいないが、この公園にさえずりが聞こえない日はない。
時折ランニングをする人が通り過ぎたり、野良猫が僕の膝に乗ったり。
そしてその中に僕だけがいる、僕の世界だ。
文章をじっくり目で追いながら、頬で風を感じ取る。
僕は落ちてきた葉っぱを1枚、栞がわりに挟んだ。
そのまま本の世界に入り込んでいく。
今読んでいる本は古代日本の神話についてだ。
大好きな雰囲気に包まれながら、高校生にもなってそんなの読むのかよ、と僕の中で誰かが囁く。
─僕は僕が嫌いだ。
17年間ずっと1人だから。
信頼出来る友達も出来たことが無い。
居るのは両親と、それから飼ってる犬だけ。
だけど本の世界はそんなのを忘れさせてくれる。
いわば初めての友達みたいなもんだ。
いつも学校の帰りにこの公園に立ち寄って本を読む。
僕とニュートンを重ねて、そして孤独を必死に受け入れる。
そんな時いつも、背中から温もりを感じさせてくれるのがこの木だった。
この木はいつからあるのかわからないくらいに大きくて、同じくらい優しい。
僕はこの木が大好きだ。
特に、たまに風で木が揺れて1箇所から鋭く光が差し込むところが、
何も無い僕の人生を照らすスポットライトみたいに感じられて好きだった。
「…久々野くん、だよね」
どのくらい時間が経ったか分からなかった。
ただ夢中で字を追っていて─だから、人の気配も感じなかったらしい。
頭上から聞こえたその声に、僕は急いで顔を上げる。
長い黒髪を胸の辺りまで下ろした君が、立っていた。
美しい髪は白い制服との対比でより黒く、艶を感じさせながら輝く。
僕が目を見開いたその瞬間、風が吹いて、栞にしていた葉っぱが飛ばされた。
君の髪の毛も同時に風になびく。
葉と葉の間にぽっかりと隙間ができて、
太陽の光が大きく君を照らした。
運命の相手に、出会った。