もし君の世界から僕だけが消えても。
「私たち、同じ委員会なんだよ」
賀綿摘夏、と名乗って、君は僕の隣に腰を下ろした。
ユラユラと木の影が僕達に張り付く。
「今日の放課後、委員会編成あったの。久々野くん知らなかったでしょ?」
僕は頷いて、そして目線を逸らす。
…知っていた。だから、帰ったんだ。
委員会は2人1組の男女ペアで、1年間変わらない。
さらに僕のクラスは偶数だ。余ることは無い。
だけど僕は─それでも僕とペアになってくれる子がいないような─そんな時に僕が悲しくないように、
知らないフリをして、教室を出た。
「正直に言うとさ、」
君は、そんな僕のことを憂鬱に思ったことがあるのかな。
僕とペアになること。
僕と話さなくちゃいけないこと。
その真相は…僕に勇気が芽生えたら、その時聞いてみようと思った。
「久々野くんって、ちょっと浮いてる。」
わかってる。僕だってそう思う。
君は明るくて、いつもクラスの中心で、
君の周りにはいつだって誰かがいる。
反対に、僕にはリーダーシップもないし
信じてくれるような友達もいない。
君と僕じゃあ、同じ人間なのかってことから疑ってしまう。
─だけど。
「でもね、私そんなことじゃ久々野くんを判断出来ないよ。」
だけど僕は、そんな君に一瞬で夢中になりそうなんだ。
白と黒、光と影。
対照的すぎることは理解しているけど、
それでも君にもっと近づきたくなってしまった。
「いっつも怖い顔して本読んでるけどさ、ほんとはいい人なんでしょ?」
君は僕の目を覗き込むようにしながら、悪戯っぽく笑った。
今思い返すと、僕が本の世界以外に初めて興味を持てたのはこの日のこの瞬間だった。
君の輝くような笑顔がまた太陽に照らされて、僕の目にはあまりにも眩しくて。
潤った唇が言葉を紡ぎ続ける。
僕は君から、目を離すことが出来なかった。
「久々野くん、1年間よろしくね」
君は立ち上がって、僕に小さなメモ紙を手渡す。
「明日、さっそく早朝から仕事あるから。早めに来てね」
そしてそのまま僕の方を見向きもせずに走って公園を出ていった。
僕は、そんな君の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、
言えなかった「またあした」の言葉を、そっと自分の中にしまっておいた。
手のひらに残った君の残りをかさりと開くと、雑なのに丁寧さを感じる字で
集合時間と、君の名前。
僕はもう一度読んでいた本を開き直す。
風で飛ばされた葉っぱの栞くらい、僕の心も舞い上がっているのだろう。
あのメモ紙は今でも、僕の1番大切な本に栞がわりとして挟まっている。
賀綿摘夏、と名乗って、君は僕の隣に腰を下ろした。
ユラユラと木の影が僕達に張り付く。
「今日の放課後、委員会編成あったの。久々野くん知らなかったでしょ?」
僕は頷いて、そして目線を逸らす。
…知っていた。だから、帰ったんだ。
委員会は2人1組の男女ペアで、1年間変わらない。
さらに僕のクラスは偶数だ。余ることは無い。
だけど僕は─それでも僕とペアになってくれる子がいないような─そんな時に僕が悲しくないように、
知らないフリをして、教室を出た。
「正直に言うとさ、」
君は、そんな僕のことを憂鬱に思ったことがあるのかな。
僕とペアになること。
僕と話さなくちゃいけないこと。
その真相は…僕に勇気が芽生えたら、その時聞いてみようと思った。
「久々野くんって、ちょっと浮いてる。」
わかってる。僕だってそう思う。
君は明るくて、いつもクラスの中心で、
君の周りにはいつだって誰かがいる。
反対に、僕にはリーダーシップもないし
信じてくれるような友達もいない。
君と僕じゃあ、同じ人間なのかってことから疑ってしまう。
─だけど。
「でもね、私そんなことじゃ久々野くんを判断出来ないよ。」
だけど僕は、そんな君に一瞬で夢中になりそうなんだ。
白と黒、光と影。
対照的すぎることは理解しているけど、
それでも君にもっと近づきたくなってしまった。
「いっつも怖い顔して本読んでるけどさ、ほんとはいい人なんでしょ?」
君は僕の目を覗き込むようにしながら、悪戯っぽく笑った。
今思い返すと、僕が本の世界以外に初めて興味を持てたのはこの日のこの瞬間だった。
君の輝くような笑顔がまた太陽に照らされて、僕の目にはあまりにも眩しくて。
潤った唇が言葉を紡ぎ続ける。
僕は君から、目を離すことが出来なかった。
「久々野くん、1年間よろしくね」
君は立ち上がって、僕に小さなメモ紙を手渡す。
「明日、さっそく早朝から仕事あるから。早めに来てね」
そしてそのまま僕の方を見向きもせずに走って公園を出ていった。
僕は、そんな君の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、
言えなかった「またあした」の言葉を、そっと自分の中にしまっておいた。
手のひらに残った君の残りをかさりと開くと、雑なのに丁寧さを感じる字で
集合時間と、君の名前。
僕はもう一度読んでいた本を開き直す。
風で飛ばされた葉っぱの栞くらい、僕の心も舞い上がっているのだろう。
あのメモ紙は今でも、僕の1番大切な本に栞がわりとして挟まっている。