もし君の世界から僕だけが消えても。
すいません、と今日だけでもう何度言ったか分からない単語を繰り返す。

「合唱なんてやだよ。どこかのクラスと絶対被るし」

僕が入ることになったのは、実行委員会という委員会だった。

文化祭でのクラスの出し物を企画するのが主な仕事で、

…そしてこの時期1番忙しい。

「なんかいい案ないかな…ねえ、他には?」

僕たちは早朝から、クラスの催し物について議論している。

君はこんなに朝早いのにきっちり髪を結って、昨日と同じような調子で話していて。

反対に僕は、出す案の全てを却下されているだけだった。

こんな早朝に登校したのは初めてだ。

早起きは辛いけど、朝の学校は木の下で過ごすのと同じくらい心地がいい。

特に、君という非日常が僕を嬉しくさせてくれる。

朝の7時12分、まだ誰もいない学校に僕と君だけの声が響いて、

「ちょっと。私の事見すぎ。んも〜集中してよね〜!」

「すいません」

もっと君と過ごしたい。
だから、学校なんて始まらなければいいんだ。





「…劇、はどうでしょう」

次の日の早朝、僕は1晩考えた最高の案を提示してみた。

というより、もうこれくらいしかやれることは無かった。

「劇、かぁ」

僕はたまに、自分で本を書くことがある。

全ておとぎ話の中の、フィクションだらけの話だけど、

その中でなら僕も大きく息が吸えた。

「…うん。いいね!じゃーその方向で行こっか。久々野くん、脚本とか書ける?」

笑った君の顔を見ながら、お前には無理だろう、とまた、僕の中で僕が言う。

こんな僕が僕は心底嫌いだ。

だからこそやろうと思えた。

脚本、なんて言うと大袈裟に聞こえるけど、

君が僕に話を振ってくれるだけで、僕はなんにだって挑戦する気になれるから。

「がんばって、みます」

僕のその言葉を聞いた君が、じゃあ私が監督ね!と、太陽みたいに笑う。

そんな笑顔につられて、僕も少し笑った。

カーテンの隙間から差し込む後光が、僕の瞳に君を焼き付けた。




ふと、君の好きな色が気になった。

君の好きな服も、歌も─きっと僕の知らない曲だろうけど。

またあした、聞いてみよう。
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