桜の鬼【完】

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「呪」

櫻はうそぶくように音を出した。

昨日、満開を一瞬見せた桜の古木の上だ。

「桃花という名の鬼は、俺を狙っていた鬼が纏っていた呪を取り込んで自決した。だが、奴の狙いは俺の血を引いた湖雪。桃花が取り込み切れなかった呪は、あの鬼が狙っていた湖雪に向いた。それを惣一郎が総て受けた――。……呪いをかけられた身。呪を纏った身体。そこに残るのは、命の期限。……惣一郎、お前は湖雪には話さず逝く気か」

ガンッと、櫻は古木の幹を殴りつける。

「ふざけるなよ。お前の兄がいくら人間出来ていようが、お前が信用していようが、んなの関係ねえんだよ。湖雪を倖せに出来る奴以外はいらねえんだよ――あの馬鹿野郎。……鬼が約定を破った代償を、教えてやる」

湖雪を泣かせないと、惣一郎は櫻に誓った。泣かせない? ふざけるな。湖雪は今お前の所為で壊れるほど泣いているんだよ。約定を違えないのが鬼と、櫻は教えた。

それを反故にした代償を、今教えてやろう。

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