桜の鬼【完】
そう言って、紙片を差し出した。そこにはお寺の名前と住所が書いてある。
「? これは……」
「言いにくいが、私の妹の墓所だ」
「! みき……」
「今度、結婚の報告に行くといい」
「……はい……! ありがとうございます……っ」
湖雪は泣きそうな顔を歪めて、そう言った。幹人は、すっと目を細め、娘を見た。
「やはり、お前は深雪によく似ているな」
小さくその言葉を残し、幹人は部屋を出て行った。
「湖雪……大丈夫?」
「はい……。幹人様が、お母さんを……」
湖雪の声は震えが止まらない。
「そうね。今度私も幹人様に連れて行ってもらわなくちゃ」
早子は冗談めかして言って、さあと湖雪に手を差し出した。
「行きましょう。貴女の結婚式よ」
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「湖雪様」
早子に手を引かれて歩く湖雪の許に、悟がやってきた。
「悟様」
「お綺麗です。いつにもまして雪華のようです」
「悟様……」
悟のもの言いに、さすがに湖雪は頬を赤らめた。悟は真っ直ぐな人だ。思っていないことは言わないし、思ったことは素直に言葉にする。総てを言葉にするわけではないが、嘘をつかない、夏桜院の世界では稀な人だ。