桜の鬼【完】
鬼であるということも、櫻という名も―――人を殺したことさえも。
総て、不思議と享受出来ていた。
「俺も、鬼が居たことに感動してる変な自分がいる」
「感動、ですか」
「うん。感動。心震えてすらいるよ」
……それは、まだ触れていないからの感情なのか。
きっと……と湖雪は思う。これ以上に櫻という名の鬼に触れれば、感動するだけの存在ではないことがわかってくるだろう。
鬼は、異形のもの。足掻いても、背いても人間になれない存在。
哀しくも、儚いほどに強い生き方。
終わらない命と約束。
「……惣一郎様、貴方は鬼になりたいのですか?」
人間になりたかった鬼。
鬼の存在を喜んだ人間。
「そうだな。いっそ、なってしまいたい」
……心は揺れている、その境界。
湖雪には、その姿が見えた。
この人も、人間を諦めた人間なのかもしれない。
その先に、異形のものを臨んでいる。
「……湖雪さんは、桜の子だと聞いた」
不意に、惣一郎がそう言った。