桜の鬼【完】
四 殺すために生き続けた鬼と護るために生き続けた鬼
惣一郎と暮らすようになって――否、惣一郎と出逢った日から、湖雪は予知夢を視なくなった。代わりに、過去の夢を視るようになった。
桜の袂、傍らに女性が寄り添っている。けれど、女性は桜の声が聞こえない。桜はずっと、いつでも彼女を呼んでいるのに。
そしてその夢では、必ず桜が満開だった。
高らかに咲き誇り、決して気づいてくれない彼女を祝福していた。
それが、六日続いた。
女性は、六人現れた。
湖雪はわかった。彼女は皆、《ゆき》だ。
《ゆき》の魂。さくらが待ち続けるもの。
七日目――湖雪は惣一郎と喧嘩をした。
原因は、何故喧嘩に至ったのかよくわからない些末なことだった。
確か湖雪は、まだ二人きりに慣れない部屋で、共通の話題である櫻の話をした。
それ以外の空間――登下校に共に歩いたり、旭日のいる庭で話したり、さすがに幹人と早子のいる場所では無理だったが――では学校のことなど普通に話すことが出来た。とても嬉しかった。こんな風に心の中の言葉を発することが出来たのは、母と別れて以来だ。
しかし部屋に二人きりという状況には異様に緊張してしまい、まだ裏返った声でたどたどしく挨拶を言うことくらいしか出来なかった。惣一郎は初日こそ緊張していたが、以後は湖雪をからかうように意地悪をしてくる余裕すら見せた。……これが一年続くのは精神的にかなりきつい。
そう思い始めた、七日目。思いつき櫻の話をした湖雪。惣一郎は無理矢理口づけてきた。
初日以来そういうことがなかったため、湖雪は動転して突き飛ばしてしまった。
「そう、いちろうさま……? どうされたのです……」
逸(はや)る心臓を抑えながら、惣一郎を見る。