桜の鬼【完】

「あさひさ……っ、ごめんなさ……っ」

涙が次々にあふれてくる。言葉が涙につかえてうまくしゃべれない。

そんな湖雪を見て、旭日はふわりとほほ笑んだ。

「湖雪様。湖雪様がひとかたになる必要などありません」

「それは……! でもそうしないと早子様が――」

「夏桜院に仕える者として、奥様も、わたしがお守りすべき方です。湖雪様が代わりに受けられた呪詛、わたしがもらいますね」

ほがらかに言って、旭日は湖雪の額に前髪の上から口づけた。

途端、湖雪は体の奥がふっと軽くなるのを感じた。

旭日が身を離す。そして、呆然とする湖雪を見てほほ笑んだ。

「わたし、生まれ変わる鬼になってよかったです。もう一度、お逢いすることが出来ました。どうです? わたし、言葉遣いも丁寧になったと思いません?」

「……っ」

桃花。今の旭日は、桃花でもあるんだ。

湖雪は唇を噛んで、何か喋れば泣き出してしまいそうで、何度も首を縦に振った。

「よかった……。夏居がわたしの意識に介入して操ってきたときはどうしようかと思いましたが、櫻がそばにいたから大丈夫だってわかってたんですよ? って、櫻に伝えておいてください。まああいつ、わたしのこと憶えてないでしょうけど。いやがらせです」

いたずらげに言う旭日は、だんだんとその姿が光の粒子に変わっていく。

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