桜の鬼【完】

……だけだと思っていた。自分の本当の気持ちは、心より先に身体が理解していた。

湖雪に口づけたい。

そして、頬に触れた。真っ赤になった湖雪は湯気を出しそうなくらい紅くて。

可愛い、と。愛おしいと思った。気づいた。何だ、一目惚れだったんじゃないか。

雪の中で桜を見上げる湖雪に、その瞬間に恋していた。

もしかしたら、初恋かもしれない。知らないんだ、こんな気持ち。

こんな、あたたかくしめつけられそうな、苦しい想い。

だから―――……もっと近くにいたいと思った。

本当は……ずっと傍にいられると思って疑わなかった。

湖雪も、同じ気持ちだと知って……。

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